ギターのはなし

中古ギターについて

昔も今も、世界中で中古ギターは新作と同じく流通しています。ギタルラ社もまた、他店と同じく中古ギターの販売にも取り組んできています。しかし楽器とは、もともと価値判断や価格査定に独特な難しさを持つ商品ですから、新作にも増して中古品の下取りや販売には神経を使います。とにかく新品より値段が安いのが最大の魅力ながら、良い買い物をするのが決して簡単ではないのが中古ギターです。正直に申し上げれば、失敗なさる方が余りに多いのです。そこで、ギター専門店として最も長いキャリアを持つ当社の実績を元に、ユーザーの皆さまに是非とも知っていただきたい事の数々をまとめてみました。

*外観と音

新品と中古の違いの第一はその外観です。前ユーザーの取り扱い方によって相当の差も出ますが、経年変化によって塗装は色褪せてきますし、大なり小なりキズも増えてきます。ただし、外観が悪くなり過ぎたギターがキズ補修と再塗装を施され、見かけ上は新品同様となって店頭に並ぶ場合もあります。

次に、最も重要な音質ですが、これは必ずしも外観と一致するものではありません。高品質ギターの場合などは、ある程度の年数を経てからの方が良い音になる傾向もあります。

また、もともとの耐久性や前ユーザーの弾き方によって、中古として販売されるギターの性能は大きく異なってきます。2年にも満たない間に音の輝きを失ったギターもあれば、20年以上の歳月を経てもなお堂々と鳴り響くギターもあります。そしてこの両極端の2例は、特に高級品にあっては決して珍しくないのです。

*価格設定

分野を問わず中古商品の価格設定の目安は新品価格で、経過年数によって新品価格から何割落とすかを決めるのが普通です。ギターも概してその例に洩れませんが、音という難しい要素があるために、必ずしも単純な計算式から査定額が出てくるわけではありません。

私どもギタルラ社が扱った事例ですが、同じ銘柄でありながら一方は、20万円、もう一方は新品価格の約2倍となる、300万円で販売した中古品があります。それは高級ギターとして最も普及してきたホセ・ラミレスですが、一方は経年変化で音が不鮮明になったもの、そしてもう一方は優れた使用材と入魂の製作術により、本来の甘美さと力強さを合わせ持つ音質を備え、今の新作をはるかに凌駕する逸品と当社が評価したものです。

そういった特例を除いた一般論として、中古品はディスカウント商品的な性格を持ち、新品価格の何%引きかという点だけが強調されて販売されがちです。これこそが落とし穴です。価格の低さに目がいくのは当然ですが、やはり極度に大きな割引率が設定されたギターには要注意です。なぜなら、商業常識として小売店が破格の安値で品物を売るのは基本的に不可能だからです。

現実に散見されることですが、外観もまずまずで比較的新しい中古ギターが新品の例えば3割程度の値段で売りに出されているならば、その新品価格設定が本来正当なものではないと言えます。電器製品やカメラなら、メーカーによってその小売価格(希望小売価格)と品質はほとんど差の無いものと言えます。ところがギターの場合、製作家によって、あるいは輸入品ならその取扱店によって、全く品質を反映しない価格設定がなされることが多く見受けられます。150万円の輸入品が国産の50万円の楽器よりも劣ることなどいくらもあるのです。国産品同士でも輸入品ほど極端ではありませんが、同様のことは残念ながらあるのです。

もう一つは、何らかの大きな欠陥を持っている可能性があります。特に音質の劣化はかなり上達した方でも判らないと言うのが現実です。腰抜けの音を枯れた音と勘違いしている方のなんと多いことか! このように原則として「掘り出し物」の中古ギターはあり得ず、おおむねその品質に見合った、あるいは新品価格が実力以上に設定されている場合ならまだ高い価格設定に落ち着いてくるものなのですが、稀に例外もあります。それは前ユーザーがほとんど使用しないままに何らかの事情で手放すことになったギターです。たとえ半年程度の所有期間であったとしても中古扱いとなり、おおむね新品の2割引前後で売りに出されることが多いでしょう。この場合、その新品価格が品質に見合ったものならば(実は上に述べたようにこれが大きな問題なのですが……)実質を重んじる方にとっては確かなお買得品です。

*購入時のチェックポイント

中古ギターの点検項目です。信用出来る店なら、下取りや買い取りの時点で検品と必要な補修を行うものですから、本来は不要と言えるかもしれません。

しかしユーザー間での取引では、普通はそのようなチェックは入りませんし、お客様からの委託で中古ギターを預かり、代金精算は売れた後というお店もあって、その場合ですと検品も少し甘くなりがちです。また、売買とは関係なく御自身のギターを良い状態に保つためにも、以下の点検項目はすべてのユーザーに知っておいて欲しい事ばかりです。

1.ネック(棹)

反りの有無をチェックします。ネックは各々違った部材である本体と指板を貼りあわせたものですから、気湿変化にともなう伸縮の度合いが異なります。更に弦の張力も影響しますが、その弦に引っ張られてお辞儀したように歪むのを「順反り」と言い、反対に裏板方向へ歪んだものを「逆反り」と言います。経年変化で生じてくるトラブルの代表格で、順反りでも逆反りでも弦高(フレットから弦までの距離)が狂ってきますので、著しく演奏困難となったり、音がビリついたりします。反りの判別には少々の経験が必要です。

もともとギターのネックは少しお辞儀した状態にあるもので、これは12フレット上で最大振幅、ナット直近で最小振幅となる開放弦振動の特性を考慮した工法です。ギターのヘッドからブリッジ部を見渡すと、その状態を良く視認できます。

問題はどの程度の変形なら反りなのかという点ですが、前述の方法で見渡した時にネックの左右の端に注目して、そこがアーチ状の曲線を描いているようなら要注意と見るのが良いでしょう。軽度の順反りなら事実上問題とはなりませんが、それがさらに進行していくことも懸念されるため、やはり重要な点検項目と言えます。

2.フレット

少し長い目でみた場合、これは消耗品の一つです。ギターのフレットは使用時間に比例して磨耗していきますが、特に3弦と4弦の第2フレットの磨耗が著しくなりがちです。極度に磨耗が進むと音のビリつきやピッチの狂いが出てきますので、フレット全体のレベル調整、または総交換が必要となります。

もちろん中古ギターのフレットは大なり小なり減ってきています。あとどの程度の期間で補修が必要となるかを見極めなければなりませんが、これには眼力が必要です。一般愛好家が自力で優良中古品を求める難しさの一つと言えますが、相当のキャリアを持つギタリストでなければ、その的確な判断はほとんど不可能でしょう。

フレットについて分かりやすいトラブルは指板両端からの突出です。乾燥によって指板が縮むことから起きる現象ですが、この修理は比較的簡単です。ただし、これが発見された場合は指板だけの問題ならよいのですが、ギター全体が危機的な乾燥状態にある場合もありますから、全体を見て判断しなくてはなりません。

もう一つのトラブルはフレット浮きと呼ばれるものです。指板にがっちりと固定されているべきフレットが溝から浮き上がってくると、判別しやすいのですが、その状態のフレット部分を押弦すると詰まったような音になり、ほとんど音が出ません。この状態のギターが店頭に出てくることはまずあり得ないと思われますが、やはり心得ておきたい事柄です。

3.マシンヘッド(弦巻き)

これも消耗品として考えるべき部品です。歯車とツマミ軸の接触部分が徐々に磨耗していきますが、最終的にツマミが空回りしたり、逆に巻き上げにくい程キツくなったりします。もちろんそれ以前に交換すべきものですが、調弦不可能に近い状態のマシンヘッドの付いたギターが多数あることも事実です。

それとは別に、ツマミを回すのに力が要るようなら、それはマシンヘッドそのものというより、取り付け部分の問題と見た方が良いでしょう。

多くの場合、ツマミを回す度に異音が出ます。反対に穴が大きくなって両者が離れた状態になれば、端の支えを失ったローラーは弦に引っ張られて斜に傾き始め、歯車に大きな負担をかけることになります。この場合、異音は出ませんが、ツマミを回す時に異様な手応えを感じます。

いずれの場合もマシンにヘッドとって致命的ですから、取り付け部全体を再調整しなければなりません。しかし現実には、この状態のまま放置されたギターも多数あるのです。経年変化で必然的に起る現象とも言えますから、特に中古ギターの選定では必ずチェックすべきことの筆頭です。

4.ブリッジ、パフリングなどの剥離

胴体に接着された部材の剥がれの有無をチェックします。ブリッジが剥がれて弦に引っ張られて飛ぶ事故は昔の量産品でよく起ったものですが、品質が大幅に向上した現在でも時折見かけることがあります。これはある時に突然飛んでしまうということではなく、じわじわと剥離が進行していき、ブリッジ接着部が弦の張力に耐えられなくなった時点で起きる事故です。

したがって必ず何らかの徴候があるものです。ギターの低部からブリッジを見て、わずかでも表面板との間に隙間があれば剥がれ始めていることになります。また、パフリングというのは胴体に縁取りされた装飾部材のことで、特に剥がれやすい胴体のくびれた部分や低部などをチェックします。

5.胴体内部の補強材の剥離

ギターの表面板と裏板に内部から貼られた細めの部材を我が国では力木、響木、バスバーなどと言いますが、これらは薄く削られた板に強度を与えることと、音質を整えるという2つの役割を持っています。

この部材の総数や配置法は製作家によって異なりますが、これらの剥離の有無を調べるのは少し難しくなります。1から4までの点検項目が直接視認できるのに対して、内部の力木の状態は見ることが出来ないからです。一般的なチェック法は、板全面にわたって軽く拳で叩いていくことです。正常な状態ではコンコンという音がしますが、力木が剥がれた部分ではグシャッという空気を含んだような音になります。内科医の触診のような方法ですが、なかなか有効です。ブリッジなどと同じく早期発見して適切な修理を施すことが大事ですが、特にブリッジ部分近辺の力木が剥がれたまま使用し続けると、最も重要な表面板が回復不能なまで歪んでしまうことにつながりかねません。

弾いた時に異音が出るので、普通はそうなる前に気付くものですが、中古ギターの場合、どのような事柄でも前ユーザーに多くを望むことは禁物です。

力木の剥離は長い間には不可避的に起る自然現象と言える面もありますが、湿度が高過ぎる状態で保管されてきたギターにより多く発生します。湿気を含み過ぎた板が極度の波打ち状態になると、力木はそれについて行けずに剥がれるより他はなくなりますから。